文化・芸術

生誕300年記念 若冲展

あっという間に、あるいはやっと、終了した若冲展。
私は前売り券を4枚買いましたが、1枚は無駄にしてしまいました。

展示内容が良いことも、大混雑するであろうことも期間前から分かっていましたので、4月中の雨天時夕方閉館間際に一度行きました。待たずに入館できましたが、会場内は特定の作品の前が混雑していました。ほとんどの作品は以前何回か見たことがあるので、初めて見るものをじっくり見ましたが、閉館時刻になり会場の外に出たら、関連グッズ売り場が大混雑していて、レジにたどり着くのに一時間待ちと言われたためスルーして、図録ともう一点目についた書籍だけを購入しました。
2回目は夫と5/17の朝7時30分少し前に東京都美術館前に行きました。この日はかなり強い雨が降っていたにも関わらず、既に1000人くらいの行列ができていました。雨が降っていたせいか8時半には館内には入れてくれて、9時に開場したためほどなく入場できました。前回は版画が見られなかったため、この日はここをゆっくりと鑑賞。桝目描きの樹花鳥獣図屏風は相変わらず人垣ができていたので、今回もパス。2013年「若冲がきてくれました」展のときに福島県立美術館で見たから。このとき福島駅から乗り換える飯坂線の美術館図書館前駅に人が溢れていたけれど、入場するまでにそれほど並びはしなかったような。
私自身がこれまで一番長く並んだのはたぶん2014年の「台北國立故宮博物院-神品至宝」展の「白菜石」だったと思います。これは確か2時間半くらい並んだような記憶が・・・
どんなに好きな絵画だって、5時間も並んでたら観る前にくたびれて、嫌になってしまいます。
今回の待ち時間の長さを批判する人の気持ちも分かるけれど、批判される都美術館のスタッフも気の毒かな・・・
NHKが何度も宣伝番組を会期中に流して煽ったせいも大きいと思うし。
もちろん伊藤若冲が好きで見に行った人が多いのだろうとは思うけど、名前も知らなかったけど、テレビでタレントがすごいって言ってたから行ってみたら、信じられないほど行列してて、せっかく来たんだから並んでおこう、という人もいたんじゃないかな~。
もちろん、名前も知らなかった人が作品に接して感動したならそれは良い経験ができて良かったね、といいますか、疲れて感動できなかった人が多かったのではないかしら。
アニバーサリー企画で作品をまとめて見られるから混雑したとすれば、1か月ごとに作品を絞ってみせる宮内庁三の丸尚蔵館方式にすれば、少しは違ったのかも。
いずれにしても今回の大騒動に巻き込まれた皆様お疲れ様でした。

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クリスティアン・ツィメルマン リサイタル 2013

2013.12.12 横浜みなとみらいホール
2013.12.21 所沢市民文化センター ミューズ アークホール

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 作品109
               第31番 変イ長調 作品110
               第32番 ハ短調 作品111

2009年にもベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番の演奏を聴いたが、インスタレーションのように感じられ、内心彼のターニングポイントだったのではないかと思っていたが、昨年の演奏はそれをさらに推し進めたものだったのではないかと思う。演奏を聴いてからかなり時間が経ってこれを書いているのは、事前にツィメルマン本人が語っていたのである程度予想はしていたものの、従来の演奏のプロトタイプには当てはまらない彼独自の表現世界を受け止め咀嚼するのに少し時間が必要だったことと、実際体調が万全でない状態で延期してでも、どうしても《今の》演奏を日本の聴衆と共有したいという熱い思いに酔ってその浮遊感を楽しみたかった。ところが年末年始にかけて国際政治上の駆け引きによって心が攪乱されて音楽の余韻が消されてしまったが、昨年の感想をとりあえずまとめた。

みなとみらいホールは久しぶりだった。関内に用事があり、馬車道を経由してゆっくり夕暮れ時の横浜を歩いてランドマークタワーを目指した。暗くなった馬車道は昔の印象とは異なって大衆的な店舗が増えたように思うけれど、銀座が変わったことを思えば同じなのだろう。桜木町の駅前には見慣れないビルが増え(一体何年前と比較しているのだと思われてもしかたない。)観覧車のイルミネーションを眺める観光客と足早に駅に向かう通勤客との対比が際立っていた。クイーンズスクエアのホールとホテルの間にクリスマスツリーがあって、大勢の人が記念撮影をしていた。点滅するイルミネーションは我慢するとしても、大音量で流される音楽には閉口した。いざホールが開場すると演奏開始前に「船が出るぞー!」という銅鑼の音が鳴り、地域色は感じられたものの予想外の音に面食らった。

ここからやっと本題。この日のツィメルマンはまだ本調子とは言えず、音を外したりすることもあったけれど、彼のやりたいことの方向性は示された。暗譜ではなく楽譜を置くことや譜めくりを自分ですることも、私は特に気にならない。あの横長の楽譜、前年と違って紙が薄いなとか、譜めくりが少なくて済むように詰め込んでいるのだろうけれど良く見えるな、などと思っていた。みなとみらいは1階2列目にいたせいで、ピアノの底から音が鳴って身体全体が共鳴しているのが感じられて大迫力だった。

所沢では1階5列目で、音が柔く、暖かいほのぼのとしたところもあって、ホールの音響特性と席の違いかと思っていたら、みなとみらいとは異なり、自分のピアノを持ち込んだらしい。「ツィメルマンはどうして所沢なんて遠いところが好きなのかしら。」と母が言っていた。夕方の渋滞時に車で行くのは時間がかかって嫌だと文句を言うのは自分勝手な理屈だけれども、音響と雰囲気の良さ、チケットの安さ(複数会場を複数枚ずつ買うのでこれは有難い)には、不便な立地を考慮しても余りある魅力がある。演奏に満足した帰り道は渋滞もなく1時間ほどで帰宅できて、「意外に近いのね。」と言っていたのはご愛嬌。
ところで昨年彼が履いていた靴が思い出せないのだが、ショパン・イヤーのときはエナメルの靴を履いていたように記憶している。今回はもう少しカジュアルな艶消しの革靴を履いていた。腰や左手だけでなく足にも違和感があるのかな。

30番における変奏曲は緩急、音量ともメリハリが効いていて、まるで即興であるかのよう。リヒテル晩年の演奏のような印象を受けた。この曲は誰の演奏を聴いても終わり方が唐突だなと感じるのだけれど、ツィメルマンは少し長めの余韻を残して静かにペダルを離した。

31番の1楽章は寂しげで不穏な影があっても全体的には平穏な時の流れを感じさせるけれど、2楽章は気持ちの悪い和音やメロディがいくつもあって私は好きではなかった。ところが、ツィメルマンの演奏では些細なことは大きな苦難、苦悩のうねりの中に隠されてしまった。3楽章はフーガの美しさが際立っていた。絶望のうちに死を迎えゴンゴンゴンと鐘が鳴って、葬儀が執り行われ昇天した、という風に聴こえた。

2009年に32番を演奏するにあたって、「歯が抜けた老人の様な演奏をする気はない」とかなんとか言っていたように記憶している。「歯が抜けた老人」とは、バックハウスかな、ルドルフ・ゼルキンかはたまたブレンデルのことかな、などと妄想していたけれど、つまり人生を達観したかのような演奏をするつもりはないという意味だったのだと思う。私は超高速と低速との対比が鮮やかなグールドと可憐とでもいうべきリヒテルの演奏が好き。色相は異なるもののいずれも色鮮やかで枯れていない。
2009年はロダンの「地獄の門」が見えたような気がしたけれど、今回の横浜での演奏は人生の機微における喜怒哀楽(30番)を経て死を迎え(31番)、死後最後の審判を迎える(32番)という一連の流れに感じられた。それはミケランジェロの「最後の審判」のように形式の整ったものというよりも、どちらかというとエル・グレコ(エル・グレコは敬虔なキリスト教徒だったようだが)の「フェリペ二世の栄光」のように異なる場面がコラージュされたようなどこか不気味な世界だった。また所沢では、さらにそれがキリスト教的なものにそうでない異教徒的なものが交じり合った不思議な感覚があって、かなり厳しく辛い状況が断続的に続いて、ブギウギのような部分もどちらかというと暗くふさぎ込んだ感じがして、天使の後光が射すかのようなトリルは美しいけれども、その天使の向こうには黒い雲が迫っているような感じがした。ベートーヴェンの根本にはキリスト教が浸み込んでいながら、どこか人間本位で宗教では救われないと思っていたのでは、という風に聴こえた。ところどころでヴェルディの「レクイエム 怒りの日」が感じられたり、モーツァルトの「レクイエム 涙の日」が感じられたりと、不思議なことがたくさん起き過ぎて混乱した。しかし、所沢でのツィメルマンは至ってご機嫌麗しく満足げだったので、あの時間と空間を共有できてうれしかった。

21日のアークホールは断続的にバキッ、バキッ、という音が高いところから降ってきて何の音か分からなかったけれど(パイプオルガンのパイプの音ではないかという意見を目にした。)、聴衆がたてているとは思えなかったので休憩後には止むかと期待したが、後半もやはり聞こえてきて残念だった。しかしこのことがある種のオカルト色を添えて不思議な効果を生んでいた。

ムンクの『叫び』があのような表現を取るに至った理由について考えたとツィメルマンがインタビューの中で語っていたが、それを読んだときには唐突な印象を受けたけれど、彼の演奏を聴いた後になってなんとなく理解できた気がする。美術書によれば、中心に描かれた人物が叫んでいるのではなく、実は叫び(幻聴?)を聴きたくないがために耳を塞いでいるのだと解説されている。難聴だったベートーヴェンは実際に耳に聞こえる音に対しては耳を塞ぐ必要はない。だから耳を塞ぐ必要があったのであれば、内なる苦悩、幻聴であったのだと思う。それを表現するためには単に耳に心地よい演奏をするわけにはいかないと考えたのだと思う。現代に古典を演奏する意義は作曲された当時の音を再現することではなく、現代の我々も抱えている普遍的魂の叫びを表現することなのだとツィメルマンは言いたかったのかもしれない。

ツィメルマンは今回の演奏をするにあたってかなり長いインタビュー記事を公開した。いつも多くのことを語ろうとするけれど、例年以上に多くのことを語っている。日本語訳を読んでいるだけで彼独特の言い回しが感じられて興味深かった。インタビュアーの青澤隆明さんとの相性が良いのかもしれない。その青澤さんが「あなたは思索家であり、ある意味では哲学者のようでもあり、同時に演奏家としては」といったことに対して「一方は手段で、もう一方は本質です。」と答えているところが彼の内面を端的に表している。
ツィメルマンはロマン主義的表現でなくても、《ロマンティック》に演奏することができると言っている。一般的にはツィメルマンの演奏がロマンティックと書かれることは少ないと思う。しかし実際の演奏を聴くと巨大な情熱に圧倒され感動するのだ。これこそが彼の言う《ロマンティック》なのだろう。

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坂 茂「建築の考え方と作り方」

久しぶりに水戸芸術館に出かけてきた。
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坂茂の建築写真や模型が展示されていて、タメディア新本社のモックアップやライトのジョンソンワックス社を想起させる韓国ナイン・ブリッジズ・ゴルフクラブの柱など、後半の展示が興味深かった。
広場では長さ世界一のチョコレートロールケーキ作りイヴェントがあったりしたせいか、この企画展は、家族連れや中高生のグループなど業界関係ではないと思われる来場者が多く、ほのぼのとした雰囲気が楽しかった。
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写真中央に映っているのは女川町コンテナ仮設住宅実寸大模型。

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「エル・グレコ展」

東京都美術館で開催中の「エル・グレコ展」に行った。平日の午後だったせいか、意外に空いていて、出品された作品数も50点あまりと多すぎず、展示空間にゆとりがあるため、ゆっくりと見ることができた。絵画鑑賞後は館内のレストランIVORYでブランチセットを食べて、心もお腹も満たされて帰宅した。

心に残った作品について少しだけ感想を。

I-1 肖像画家エル・グレコ

  1. 芸術家の自画像 エル・グレコの肖像画を初めて見た。少し時代が後になるベラスケスの絵画よりも、薄付の絵の具の発色が鮮やかで、絵の具の亀裂や剥離もなくて、最近補修したのだろうか。(キャンバスに描かれた他の絵画ほとんどすべて、所蔵は多岐に亘るのに、どれもきれいな状態だった。)顔立ちがギリシャ人らしくなくて、どちらかというとイタリア人のように見えるのは、この時代クレタ島がヴェネツィア領だったせいなのか、それともデフォルメされたせいか。

  4. 燃え木で蝋燭を灯す少年 ジョルジュ・ラ・トゥールの「聖ヨセフ」とかカラヴァッジョの作品群を想起させるけれど、それらよりずっと以前に描かれたもの。素朴な感じの力強い筆遣いでのちのエル・グレコらしいデフォルメされないプロポーションが清々しい。

  5. 白貂の毛皮をまとう貴婦人 エル・グレコの作かどうかまだ定見は無いようだが、この人にあんな官能的な絵画があったとは意外だ。いずれにしても、作者と女性との関係が親密であったことは想像に難くない。

I-3 見えるものと見えないもの

この区分に展示されたものが、私にとっては最も興味をそそられる作品群だった。描かれる人物のプロポーションはデフォルメされて、まるで今日の少女マンガのようだし、色彩は補色を多用して鮮やかだ。宗教上のモティーフを扱っているけれども、荘厳なリアリティを追及するよりも、非日常の神秘を炙り出してどこかユーモラスでもある。

  17. 聖母の前に現れるキリスト 18.聖アンナのいる聖家族 では衣服は単純化されて単に彩色された塊として描かれている。

  19. 聖ラウレンティウスの前に現れる聖母 では、聖母子はやはり単純化されているのに、聖人の衣服の質感とディテールに対する描きこみは圧倒的だ。このあたりが、現実と非現実の描き分けということなのだろう。

  22. フェリペ2世の栄光 様々な世界がコラージュされて物語を作り出す手法が16世紀のスペインにあったとは。地獄の表現が、もっとも想像力を刺激する。

III トレドでの宗教画:説話と祈り

この頃の絵がまさにエル・グレコの名前を聞いて思い描くイメージのものだった。20数年前、プラド美術館ではエル・グレコ作品をいくつか見たはずなのに、記憶が定かでなく、トレドではエル・グレコの家もサンタ・クルス美術館も素通り、カテドラルには入ったものの「聖衣剥奪」を見ず。あぁ、もったいなかった、と今頃になって思っても時すでに遅し。
今回全出展作品で最も感動したのが、

  36. オリーヴ山のキリスト この作品がブダペスト国立西洋美術館の作品のレプリカであったとしても、この構成力は素晴らしい。涙が溢れてきたときに、いつの間にか誇張された遠近法の世界に取り込まれ、この物語に浸っている自分に気づいた。

IV 近代芸術家エル・グレコの祭壇画:画家、建築家として

  39. 巡礼者としての聖ヤコブ この顔とプロポーションがカヴァコス Leonidas Kavakos とそっくりで、笑った。
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大作についてはほとんど書いていないが、面白くなかったわけではなく、もう少し自分なりに調べてから再度見に行こうと思っているところ。

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2012年 演奏会・舞台鑑賞記録

演奏会もバレエも2012年はお終い。
前半は少なめだったのが、怒涛の11月があったために、合計24公演。
バレエの感想が未だ書けていないけれど、いつか書けるかもしれない。今年はボリショイとマリインスキーが来てバレエフェスもあって、公演数は少なめだったけれども2枚ずつチケット買うと結構な出費。来年はヨーロッパのメジャーオケが大集合でVPO、BPO、RCO、LSO、PO、パリ管に加えてルツェルン祝祭管も来るらしい。夜出歩いてばかりもいられなくなりそうで、一体どこを削るべきか思案中。たぶん来年も室内楽中心の鑑賞になりそうです。

少し早いけれど、皆様どうぞよいお年をお迎えください。

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01) 01.15 アルカント・カルテット トッパンホール
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-8e12.html

   バルトーク:弦楽四重奏曲第6番

   ハイドン:弦楽四重奏曲 ロ短調 Op.64-2 Hob.III-68

   ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10

   【アンコール】
   クルターク:5つの楽興の時より カプリッチョ

   ブラームス:弦楽四重奏曲第3番より 第3楽章

   J.S.バッハ:フーガの技法 BWV1080より コントラプンクトゥス

02) 01.31 ボリショイ劇場「スパルタクス」 東京文化会館
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/post-99d7.html

03) 02.23 アリーナ・コジョカル ドリームプロジェクトBプロ
             ゆうぽうと
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/b-9db8.html
   「ラリナ・ワルツ」振付:リアム・スカーレット
     音楽:P.I.チャイコフスキー
   「タランテラ」振付:ジョージ・バランシン
     音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
   「くるみ割り人形」より グラン・パ・ド・ドゥ
     原振付:ワシリー・ワイノーネン  音楽:P.I.チャイコフスキー
   「ディアナとアクテオン」振付:アグリッピーナ・ワガノワ
   音楽:チェーザレ・ブーニ
   「椿姫」より第3幕のパ・ド・ドゥ 振付:ジョン・ノイマイヤー
    音楽:フレデリック・ショパン
   「ザ・レッスン」振付・デザイン:フレミング・フリント
    音楽:ジョルジュ・ドルリュー
   「ドン・キホーテ」デヴェルティスマン 原振付:マリウス・プティパ
    音楽:レオン・ミンクス

04) 04.04 トヨタ・マスター・プレイヤーズ ウィーン サントリーホール
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-53c6.html

   J.シュトラウスⅡ:ワルツ『春の声』 op.410
    :オペレッタ『こうもり』序曲
    :オペレッタ『こうもり』から「侯爵様、あなたのようなお方は」
    :オペレッタ『こうもり』から「田舎娘の姿で」

   シューベルト:イタリア風序曲 ハ長調 D591
    :オッフェルトリウム『心に悲しみを抱きて』 ハ長調 D136

   ベートーヴェン:ロマンス第2番 ヘ長調 op.50

   モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K550

   【アンコール】
   J.シュトラウスⅡ世  騎士パズマンのチャールダッシュ
   J.シュトラウスⅡ世 トリッチ・トラッチ・ポルカ

05) 04.07 山根一仁 ランチタイムコンサート トッパンホール
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-17fa.html
    ピアノ:鈴木慎崇

   ブラームス ヴァイオリンソナタ第1番 ト長調 Op.78

   ワックスマン:カルメン幻想曲

   【アンコール】
   クライスラー:中国の太鼓 Op.3

   バッツィーニ:妖精の踊り Op.25

06) 04.21 レ・ヴァン・フランセ さいたま芸術劇場
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-610c.html

   バーバー:夏の音楽

   ルイーズ・ファランク:六重奏曲

   モーツァルト:ピアノと管楽のための五重奏曲 変ホ長調 KV 452

   ヴェレシュ・シャンドール:オーボエ、クラリネット、バソンのためのソナチネ

   プーランク:六重奏曲

   【アンコール】
   ルーセル:ディヴェルティスマン(ディヴェルティメント) 作品6

   テュイレ:《六重奏曲 変ロ長調》作品6より 第3楽章 ガヴォット

07) 04.30 クリスティアン・テツラフ トッパンホール

   シマノフスキ:《神話》 Op.30

   イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 Op.27-1

   パガニーニ:24の奇想曲 Op.1より 4曲

   クルターク:《サイン、ゲーム、メッセージ》より/《ピパルティータ》 他

   エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ヘ短調 Op.6

   【アンコール】
   ドヴォルジャーク:ソナチネ ト長調 Op.100より
  第4楽章 Allegro/第2楽章 Larghetto
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/with2012-20ee.html

08) 06.09 エフゲニ・ボジャノフ さいたま芸術劇場
     ピアノ・エトワール シリーズ Vol.18

   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 作品31-3

   ショパン
  :マズルカ 第21番 嬰ハ短調 作品30-4
    マズルカ第26番 嬰ハ短調 作品41-1
    マズルカ第32番 嬰ハ短調 作品50-3
    ワルツ第8番 変イ長調 作品64-3
    ワルツ第5番 変イ長調 作品42
    ワルツ第1番 変ホ長調 作品18 「華麗なる大円舞曲」

   リスト:エステ荘の噴水
    ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲
    オーベルマンの谷
    グノーの歌劇《ファウスト》からのワルツ

   【アンコール】
   シューベルト作曲 リスト編曲 セレナーデ

   ショパン:英雄ポロネーズ
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-fc0c.html

09) 07.20 五嶋みどり 西本願寺書院内対面所
10) 07.21 五嶋みどり 西本願寺御影堂
   バッハ:無伴奏パルティータ&ソナタ
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/30-0198.html

11) 08.04 世界バレエ・フェスAプロ 東京文化会館
12) 08.11 世界バレエ・フェスBプロ 東京文化会館

13) 09.29 ヤン・リシエツキ さいたま芸術劇場 音楽ホール
     ピアノ・エトワール シリーズ Vol.19

   メシアン:《前奏曲集》より
    第1曲〈鳩〉、第2曲〈悲しい風景の中の恍惚の歌〉、
    第3曲〈軽快な数〉、第4曲〈過ぎ去った時〉

   J. S. バッハ:パルティータ第1番 変ロ長調 BWV 825

   モーツァルト
    :ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 KV 331(300i)「トルコ行進曲付き」

   ショパン:12の練習曲 作品25
   【アンコール】
   ショパン:《12の練習曲》作品10より
    第12番 ハ短調 「革命」
    第9番  ヘ短調
    第5番  変ト長調 「黒鍵」
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-1ee0.html

14) 10.23 マウリツィオ・ポリーニ サントリーホール
    Pollini Perspectives2012

   マンゾーニ:Il Rumore del tempo

   ベートーヴェン:
   ピアノ・ソナタ第21番ハ長調op.53「ワルトシュタイン」
   ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調op.54
   ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57「熱情」
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/pollini-perspec.html

15) 10.31 クレーメル&クレメラータ・バルティカ サントリーホール
      The Art of Gidon Kremer

   シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 op. 129
 (R. ケーリングによるヴァイオリン、弦楽合奏とティンパニ編曲版)

   モーツァルト:ピアノ協奏曲 イ長調 K488
    ピアノ:カティア・ブニアティシヴィリ

   【アンコール】リスト:愛の夢3番

   ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op. 61 

   【アンコール】カンチェリ/プシュカレフ :黄色いボタン
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/the-art-of-gido.html

16) 11.08 ラドゥ・ルプー オペラシティ
    シューベルト・プログラム

    16のドイツ舞曲 D783, op.33
    即興曲集 D935, op.142
    ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960 (遺作)
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-c68f.html

17) 11.15 レオニダス・カヴァコス&エンリコ・パーチェ トッパンホール

   ベートーヴェン:
    ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ長調Op.12-1
    ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調Op.24《春》
    ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調Op.47《クロイツェル》
   【アンコール】
   ストラヴィンスキー:サミュエル・ドゥシュキン編曲
  《ペトルーシュカ》よりロシアの踊り
   ベートーヴェン:
    ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調Op.30-1第2楽章
    ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調Op.30-3第3楽章
 http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-aacf.html

18) 11.22 マリインスキー劇場バレエ「アンナ・カレーニナ」 東京文化会館

19) 11.25 河村尚子 さいたま芸術劇場 音楽ホール
     ピアノ・エトワール シリーズVol.20

   J. S. バッハ:《平均律クラヴィーア曲集第1巻》より
    第12番 前奏曲とフーガ へ短調 BWV 857

   ハイドン:ソナタ 第32(47)番 ロ短調 Hob. XVI:32

   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57「熱情」

   スクリャービン:左手のための2つの小品 作品9

   ショパン:バラード第4番 ヘ短調 作品52

   ドビュッシー:《前奏曲集》より
    〈亜麻色の髪の乙女〉
    〈アナカプリの丘〉
    〈花火〉
    ピアノのために
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-74da.html

20) 11.27 クリスティアン・ツィメルマン 川口リリアホール
   プログラムB

   ドビュッシー:版画より
    1.パゴダ
    2.グラナダの夕べ
    3.雨の庭
   :前奏曲集第1集より 
      2.帆
     12
.ミンストレル
      6.
雪の上の足跡
      8.
亜麻色の髪の乙女
     10.沈める寺
      7.西風の見たもの


   シマノフスキ:9つの前奏曲集Op.1より
       1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
       2.アンダンテ・コン・モート
       8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

   ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 Op.58
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/2012-ba94.html

21) 11.28 M.ヤンソンス:バイエルン放送交響楽団

   ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲 作品84
  交響曲第8番ヘ長調 作品93
  交響曲第7番イ長調 作品92

   【アンコール】
   シューベルト  楽興の時3番
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/symphonieorch-1.html

22) 12.03 D.ハーディング:新日本フィル
   
   チャイコフスキー交響曲第4番

   ストラヴィンスキー:「春の祭典」
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-0e8e.html

23) 12.08 クリスティアン・ツィメルマン 所沢ミューズホール
     プログラムA

   ドビュッシー:版画より
    1.パゴダ
    2.グラナダの夕べ
    3.雨の庭
   :前奏曲集第1集より 
      2.帆
    12.ミンストレル
      6.雪の上の足跡
      8.亜麻色の髪の乙女
    10.沈める寺
      7.西風の見たもの

   シマノフスキ:9つの前奏曲集Op.1より
       1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
       2.アンダンテ・コン・モート
       8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

   ブラームス:ピアノ・ソナタ第2番嬰へ短調 Op.2
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/2012-a548.html

24) 12.12 クリスティアン・ツィメルマン すみだトリフォニー
      プログラムB

   ドビュッシー:版画より
    1.パゴダ
    2.グラナダの夕べ
    3.雨の庭
  :前奏曲集第1集より 
      2.帆
    12.ミンストレル
      6.雪の上の足跡
      8.亜麻色の髪の乙女
    10.沈める寺
      7.西風の見たもの

   シマノフスキ:9つの前奏曲集Op.1より
       1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
       2.アンダンテ・コン・モート
       8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

   ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 Op.58
   http://luncheon-today.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/2012-636a.html

会場別鑑賞回数

東京文化会館     5 ボリショイ BalletFesA&B マリインスキー
                              BRSO
トッパンホール   4 アルカントQ 山根一仁 テツラフ
                             カヴァコス
さいたま芸術劇場 4 レ・ヴァン・フランセ ボジャノフ リシエツキ
                             河村尚子
サントリーホール  3  VPO Pollini Kremer
西本願寺       2 五嶋みどり
トリフォニーホール 1 Zimerman
所沢ミューズ     1 Zimerman
川口りりあ       1 Zimerman
埼玉会館       1 新日本フィル
オペラシティ     1 ルプー
ゆうぽうと       1 コジョカル

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2012クリスティアン・ツィメルマン すみだトリフォニー

2012.12.12 すみだトリフォニーホール

プログラムB

ドビュッシー:版画
  1.パゴダ
  2.グラナダの夕べ
  3.雨の庭
 :前奏曲集第1集より
  2.帆
  12.ミンストレル
  6.雪の上の足跡
  8.亜麻色の髪の乙女
  10.沈める寺
  7.西風の見たもの

シマノフスキ:9つの前奏曲集Op.1より
  1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
  2.アンダンテ・コン・モート
  8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58

「版画」ではアジア、スペイン、フランス(ヨーロッパ)が描かれているらしいが、これはツィメルマンが演奏等で実際に見て感じてきた世界だろう。ツィメルマンという稀有の語り部によって、彼がこれまで経験してきた世界の風景、温度、静寂と喧騒、「雨の庭」では匂いまでが感じられた。

「前奏曲集」は一つの物語に聞こえた。
地平線までさざ波だけが見える、静かな海の風景「ヴェール 帆」。そして、その海を前にした「ミンストレル 吟遊詩人」の心象風景「雪の上の足跡」寂寥、虚無。そして昔日の思い出、慰め、労り「亜麻色の髪の乙女」。沈んでいた伽藍が浮かび上がるのではなく、自分自身が海に潜り探し当てたものは文字通り“がらんどう”誰もいないその寺に響き渡る鐘の音は自分の頭の中だけで鳴っているものなのか、次第に気が遠くなっていくような「沈める寺」。一方、陸の荒ぶる神は猛威を振いあらゆるものをなぎ倒していくさまを描く。あるいはもしかすると原発事故を引き起こしたことやその後の処理に対する、ツィメルマン自身の怒りかもしれない「西風の見たもの」。
拭っても、拭っても、涙が止まらない。ツィメルマンのピアノの音を聴いているようで、実は聴いていなかったのかもしれない。前日の話*を聞いた後ではどうしても前奏曲集各曲は津波が引いた後のイメージに染まってしまい、そのイメージから抜けられなかった。11日が月命日だったからというのはあるだろうが、日本公演の初めに震災追悼のメッセージを出してしまうと、そのメッセージが強烈すぎて純粋に音楽を聴けなくなる恐れがあるので、敢えて最終公演の前日に発表したのだろう。

シマノフスキ 前日*は被災した人々に捧げられた音楽。心に突き刺さる無数のガラスの破片を一つずつそっと取り除こうとするけれども、そう簡単に癒せないことがわかっているから、せめてここに一緒にいるよと、悲しそうに微笑む感じ。

ショパン ピアノ・ソナタ3番第3楽章はこれまで聴いたことがないほど、ゆっくりと、優しく、心を込めて語りかけてくれた。鳴っている音はもちろん最上級に美しいのだけれど、心に直接伝わってくる暖かく柔らかなその感触を思い出すと、また涙が止まらなくなる。

聴衆からは盛大な拍手が送られたけれども、熱狂という種類のものではなく、たぶん半分以上の人は何が起きたのかわからずにあっけにとられていたのではないかと思う。客電が点ると意外にあっさりと拍手が収まり、ツィメルマン日本公演最終日は締めくくられた。

リリアでの演奏を聴き、なぜあんなにも闇に沈んでいくような音を出すのかわからず、様々な思いが交錯してなかなか文章化することができないでいた。違法な録音・公開による裁判などで彼の気持ちが傷ついていることはわかったけれども、本当の理由が納得できず動揺して気持ちの整理がつかなかった。
それでも記憶に留めておかなくてはいけないと思い、ミューズの演奏を聴いてから、ともかく思いの断片を繋ぎ合せて、それぞれの感想を書き上げた。その翌日11日オペラシティで「シマノフスキを被災された方々に捧げる」*とツィメルマンからのスピーチがあったという。2011年3月11日、彼は東京にいてあの地震を、その後の津波や原発爆発事故の国内向け報道とEUでの報道の相違、スイス大使館からの避難勧告などを直に経験しているからこその、畏れ、悲しみ、怒り、慰め、祈りの表現であったのだと考えると腑に落ちる。芸術の受け止め方は人によって様々だし、多義性を持っているからこそ芸術だとも言える。
昨年の3月以降、多くのアーティストの来日キャンセルが続く中、敢えて来日したアーティストが無言であるいは言葉で発したメッセージに慰められたり、励まされたりした。でもこれだけの強い思い(一時的な感情ではなく、これまで1年9か月経っても継続する強い思い)を隠さず、まっすぐに伝えようとしているツィメルマンに強く心を揺り動かされた。

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2012クリスティアン・ツィメルマン 所沢ミューズ

2012.12.08 所沢市民文化センター ミューズ アークホール

プログラムA

ドビュッシー:版画 (1903年-41歳)
  1.パゴダ
  2.グラナダの夕べ
  3.雨の庭

  :前奏曲集第1集(1910年-48歳)より 
    2.帆
   12.ミンストレル
    6.雪の上の足跡
    8.亜麻色の髪の乙女
   10.沈める寺
    7.西風の見たもの

シマノフスキ
  :9つの前奏曲集Op.1(1899-1900年-16歳)より
    1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
    2.アンダンテ・コン・モート
    8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

ブラームス
  :ピアノ・ソナタ第2番 嬰へ短調Op.2(1852年-19歳 1854年改訂)

前半のドビュッシー「パゴダ」でのガムランのゴングのように揺れる響きの美しさはホールの音響特性上、川口よりも所沢のほうが合っていたと思う。「版画」全体が先日のようなセピア色の退廃的な耽美主義的演奏ではなく、もう少し健康的で模範的演奏だった。「ヴェール」は神秘体験の官能性よりも情景を淡々と描いたような印象で、「ミンストレル」では諧謔性を前面に、「雪の上の足跡」は夢の中で雪の上に残された小鳥の足跡を遠くから見ているモノトーン情景。「亜麻色の髪の乙女」も過度にノスタルジーに浸ることなく割合に淡々と。「沈める寺」ではそれまでの緩やかな空気の流れに上昇気流が生じて、一気に色彩が豊かになり、夕日に染まった海面が金色に煌めき、巨大な潜水艦が浮上してきたかのごとく現れた壮麗なカテドラルにズームインしていくと、いつのまにか自分がカテドラルの内部にいてその大空間に響き渡る音を感じていたのに、しばらくの後には建築ごとまた海に沈み、終には海にのみ込まれ消滅していたという感じ。「西風の見たもの」では、吹き荒ぶ風の大音量の渦の中にいて翻弄されている自分。前奏曲集の初めは客観的立場にいた自分がいつの間にか物語の主人公へと変化している感じがしてプログラムの構成は巧みでバランスのとれた美しい演奏だった。

シマノフスキ「9つの前奏曲」はドビュッシー「版画」とほぼ同じ時代に作曲され、どちらも霧がかり視界が限られた中で揺らめく光と影を感じるような曲という点では似ている。しかしこの日の演奏では内向的なほの暗いところから始まったものの沈潜していかずに徐々にポリフォニーの芳しい調べが発散していくエネルギーに溢れた演奏だった。

ブラームスのソナタは、ウゴールスキーとオピッツの演奏をCDでしか聴いたことがなくどちらかといえばオピッツのような爽やか系ではなく、ウゴールスキーのような情念系に近い演奏で熱演だったように思う。しかし、なぜか印象があまり残らず残念。もう一度聴けば印象が異なるかもしれない。みなとみらいではプログラム変更があったとのことなので、もしかすると最終日のトリフォニーでもブラームスが聴けるかもしれない。

この日印象的だったのが、譜面台に載せられた楽譜。リングノートで5段見開き4列配置、演奏順に譜めくりが最少となるよう作られたもの。もしかするととてもきれいに手書きされたものだったかもしれない。手書きかどうかはともかく、設計図のようなその楽譜の作りからは彼の几帳面さと合理性が感じられた。ホワイエにはドビュッシー、シマノフスキ、ブラームスの初版譜の展示がされていた。

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2012クリスティアン・ツィメルマン 川口リリア

2012.11.27 川口総合文化センター・リリア メインホール

プログラムB

ドビュッシー:版画 (1903年-41歳)
  1.パゴダ
  2.グラナダの夕べ
  3.雨の庭

:前奏曲集第1集(1910年-48歳)より 
    2.帆
   12.ミンストレル
    6.雪の上の足跡
    8.亜麻色の髪の乙女
   10.沈める寺
    7.西風の見たもの

シマノフスキ
  :9つの前奏曲集Op.1(1899-1900年-16歳)より
     1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
     2.アンダンテ・コン・モート
     8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

ショパン
  :ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58(1844年-34歳)

ポリーニの日本公演でのドビュッシーを聴いたツィメルマンが感動したと言っていたので、当初プログラムがドビュッシーのエチュード全曲と発表されて、実はとても楽しみにしていた。だからプログラム変更は残念だったけれども、久しぶりにツィメルマンの演奏が聴けると思うとやはりワクワクしながらリリアに行った。すると大勢の人が2階のアトリウムに溢れ返っている。ホワイエの出入り口が開かれても、入れるのはホワイエまで、ホールの開場は結局30分遅れ。そこからさらにツィメルマン氏からの違法に録音したりそれを投稿したりしないでほしい旨のメッセージ代読があり、開演は15分余り遅れた。私たち聴衆の友人としてステージに出てきた本人はいつものようににこやかな表情でちょっと安心した。

ドビュッシー「版画」はこれまで聴いたことのある演奏で最も美しく、かつ妖しかった。ひっそりと静まり返った薄暗い廊下の先に天井の高い寒々とした部屋があり、自分以外誰もいないその部屋に小さなリトグラフが掛けられ、仄かな明かりに照らされた細密画のようなリトグラフに閉じ込められたような思いがした。ところどころ左手の低音部が強調されていたせいかもしれない。

「前奏曲集」は「帆」、「ミンストレル」、「雪の上の足跡」と静、動、静と反復されることによって生み出される長周期の波が私の中の雑念を一掃して薄墨の一筆書きが址に残され、その文字を解読しようとしているところに、「亜麻色の髪の乙女」が流れてきて、遠い過去の憧憬が寂しくてまさかこの曲に泣かされるとは思いもよらなかった。「沈める寺」と「西風の見たもの」はポリーニのアンコールでの暑くて乾燥した砂漠に出現した蜃気楼のような超常世界に対して、ツィメルマンは冷たい水が煌めく中での浮遊感と石造建築物の重量感の対比、自然と人工物との対比のようなものが感じられた。

シマノフスキの前奏曲はドビュッシー「版画」と同時代に書かれたものであり、またショパンと同じポーランドを代表する作曲家で、いわばこのプログラムの橋渡し的存在のせいか、それとも曲が短いせいか、きれいな曲だったにもかかわらず印象が少々薄い。

ショパンのソナタ3番は一昨年聴いたときには中心に人間がいて紡ぎだされる感情の渦という演奏だったと思うが、今回はオルフェウスとかイザナキとかの妻の復活に失敗した神話、あるいは「ゲド戦記III さいはての島へ」におけるレバンネンと黄泉の国で影と戦った末全ての魔法を失う大賢人ゲドの物語等、禍々しき黄泉の国をめぐるファンタジーに聴こえた。
録音状態がよろしくないので普段はリパッティを聴かないのだけれど、この日の演奏は私の知る限りでは、リパッティ(1947年録音)に近い印象を受けた。リリアでの演奏を聴いてから2週間近く経って改めてリパッティを聴いてみると(ツィメルマンよりも)全体にゆったりとしたテンポだし具体的にどこそこが似ていると言えるようなところはない。強いて言えば、第4楽章でのずしんとお腹に響いてくる低音の美醜を超えた(いや十分美しい響きなのだが)確信に満ちた足取りかな。

空調の音なのか機械音なのかわからないがこのホールでは演奏中も、そうでない時にも幽かに低周波の唸りが聞こえて耳障りだった。リリアには音楽ホールもあるので、できればそちらで聴きたかった。小さなホールには本当に聴きたい人が集まってくるだろうから、隣や前の席で演奏中に寝息を立てたうえ、帰り支度を始めたお尻がカーテンコールで出てきたツィメルマンを隠す悲劇は回避できたのではないかと思った。

所沢のチケットは発売初日に押さえていたが、この日の演奏を聴いて予定上可能なサントリー、オペラシティ、トリフォニーいずれかの日にもう一日チケットを買い増すことにした。ネット検索して一番良さそうな席が残っていたトリフォニーにした。今年のコンサート会場は空席の目立つことが多く、新聞にも供給過剰と書かれたりして、(ロルティのように小ホールで1回しかリサイタルがなく、気づいた時にはすでに完売ということもある)残念だけれど、演奏会間近でもチケットが買えること自体は悪くないと思う。主催者側からすれば早い時期にチケットが売り切れた方が喜ばしいとしても、聴衆側としては、急に予定が空いたとか、一度聴いて良かったからまた聴きたいと思った時にチケットが入手可能なのはうれしい。しかし興行的に失敗して、コンサート自体が無くなってしまっては悲しいし、困る。ファン層を広げるためにはYouTubeのような媒体は有効だと思うので、正規レーベルとか招聘元から高音質を無料で聴ける宣伝用抜粋音源を出すということはできないのだろうか?「生演奏は録音よりもさらに素晴らしい体験ができますよ。」と宣伝するとして。ツィメルマンさん、そういうことではだめですか?

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レオニダス・カヴァコス & エンリコ・パーチェ

2012.11.15 トッパンホール

ベートーヴェン:
  ヴァイオリンソナタ第1番ニ長調Op.12-1
  ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調Op.24《春》
  ヴァイオリンソナタ第9番イ長調Op.47《クロイツェル》
アンコール
ストラヴィンスキー:サミュエル・ドゥシュキン編曲
  《ペトルーシュカ》よりロシアの踊り
ベートーヴェン:
  ヴァイオリンソナタ第6番イ長調Op.30-1第2楽章
  ヴァイオリンソナタ第8番ト長調Op.30-3第3楽章

開演の予鈴が鳴って結構な間が空いた。会場内で話される小声も途切れシーンしている。普段は気が短くて待たされるのが嫌いなのに、ギリシャ人とイタリア人だから、のんびりとこれから着替えるのかとか、どんな演奏が聴けるのか等と想像していたら不思議と楽しくなってきた。しばらくして舞台袖でチューニングする音が漏れてきた。ついに扉を開けて出てきたカヴァコスは想像以上に大きくて、黒い長髪、微妙に無精髭風、黒いスタンドカラーのオーバーシャツは幾何模様の織で袖と前立てに赤いパイピング。会場中の人に挨拶するかのように好奇心いっぱいに目を輝かせて端から端まで見渡している。人なつこいバーニーズ・マウンテン・ドックのようだ。そしてピアニストのパーチェは痩躯にグレーのロングタキシード、少々神経質そうな表情。この二人、実は同年齢。

譜面台に楽譜を置くと、すぐ演奏開始。ヴァイオリンはとても澄んだ綺麗な音でありながらも暖かくやわらかい。弓を上げ下げするたびにカヴァコスの呼吸が聞こえてきて、時々バンドネオンとかアコーディオンのような音を立てる。大きな体があの音色を作っているのだろう。一方ピアノは少々憂いを帯びた軽く澄んだ透明度の高い音で、でしゃばることなく歌をリードしていく。(この二人が演奏するベートーヴェンのヴァイオリンソナタを聴きながらこれを書いているけれども、ヴァイオリンもピアノも共に昨日とは印象が異なり、特にピアノの音が全く違う。)男性ピアニストにしては細めの指が鍵盤に対してフラットな構えで滑らかに移動し、ペダルの踏み方も丁寧で柔らか。楽譜にある音以外の音を立てない。パーチェは時々カヴァコスのほうを振り返って見ているけれど、カヴァコスがパーチェのほうを見ることはほとんどないせいかどうか、時折微妙に二人のタイミングがずれるのだけれど、こんな風に演奏したいんだなと思うだけで、またすぐに二人の呼吸があってくるので、特に違和感はない。
私はベートーヴェンのヴァイオリンソナタの1番、5番、8番、10番が好きで、グリュミオー&ハスキルかクレーメル&アルゲリッチの演奏を聴くことが多いが、夜眠れない時にはグリュミオー&ハスキルを聴くと気持ちが安らぐ。前半はまるでハスキルとグリュミオーを聴けたかのような幸福感に満たされた。

一転して後半のクロイツェルは、この曲が本来持っている魔性とかエキセントリックな感情の奔流とかを一気に爆発させたかのような演奏で、前半とは対照的だった。1楽章冒頭ヴァイオリンソロから大変な集中力で、ヴァイオリンの音量は全体的に3割アップしたような気がするし、テンポも強弱も自由自在に変化するのに合わせて多彩な音色が瞬時に切り替わるし、息つく暇がない。それまであまり激しい体の動きがなかったカヴァコスだがスフォルツァンド部分では飛び跳ね床を踏み鳴らしていた。2楽章での美しい歌い回しをヴァイオリンとピアノが交互に繰り返すところでも、控えめな表現ではなく、雄々しいとか堂々としたという表現の方がふさわしいくらいだった。3楽章ではこれまでフォルティッシモでもエレガントな演奏をしていたパーチェが肩より高いところから腕を振り下ろしてガツンと凄い勢いで始まり、どんどんヒートアップして会場全体が興奮の坩堝と化したといっても過言ではないと思う。最後の余韻はピアノがより長く残り、幽かな音の消えゆく時間やや静寂があって、小さなホールが万雷の拍手で満たされた。本人たちも渾身の演奏に満足の笑顔を見せていた。
アンコールはベートーヴェンの他のソナタだろうと思っていたら、まさかのペトルーシュカで驚いたけれど、先程の興奮が続きノリノリの超絶技巧これでもか!状態で盛り上がりも最高潮。次はクールダウンのベートーヴェンソナタの6番、そして8番。どちらも大変優美でちょっと悲哀が感じられて大満足。サイン会にはたくさんの人が並んでいたようだけれど、私は今聴いているこのベートーヴェンソナタ全曲のCDだけ購入して帰宅の途に就いた。この秋一番幸せな時間だった。

追記

カヴァコスもパーチェもどちらも強く印象に残ったので、うちにあるTVの録画番組(ヴェルビエ音楽祭2012)とかYou Tubeの映像(http://www.festivalnazioni.com/IT/Galleria/Foto)とかを見たら、ステージ衣装は同じもののようだった。ただしFESTIVAL DELLE NAZIONI の映像は音割れしていて、ちょっと聞きづらい。ヴェルビエではジョシュア・ベルとイザイを演奏しているけれど、ベルも1967年生まれの同い年。二人の演奏スタイルはかなり違うのに、生まれてくる音には共通点が多いように感じた。

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五嶋みどり デビュー30周年特別プロジェクト 西本願寺公演

みどりの母、節の出身校で、midori自身も現在同校客員教授となっている相愛大学が浄土真宗本願寺派(西本願寺)の宗門校ということで、今回の西本願寺公演が実現したと思われる。

7/20は南能舞台で演奏し書院対面所に緋毛氈を敷いた上での鑑賞。雨が降り、非常に蒸し暑い中、楽器のコンディションも、音響条件も劣悪と言わざるを得なかった。ただ、対面所に敷かれた緋毛氈には1列25名程度で列と列の間には通路も取られていたため、全体的にはゆったりとした配置で寛いで聴くことができたのは良かった。

ソナタ 第2番イ短調 BWV1003
パルティータ 第1番ロ短調 BWV1002
パルティータ 第3番ホ長調 BWV1006

かすれ気味の幽かな音でゆっくりと始まったソナタの2番は、ノンヴィブラート奏法かのように響かないポツポツとした音で、聴こえにくいために(縁側で聴いていた人たちにはどう聴こえたのだろうか。)反って、皆の集中力が増したように思える。時折激しくなる雨音や鳥の声、はたまた街の喧騒も聞こえたけれども、パルティータ1番になると演奏者、聴衆とも耳が慣れてきたし、楽器の鳴りも良くなってきた。雨が止み夕暮れの赤みを帯びた光の中で演奏されたパルティータ3番はヴィブラートと装飾音を織り交ぜ、陰影が鮮やかで爽快であった。
先日NHK  FMで聴いたヒラリー・ハーンの演奏は正確な音程と明るい音色の華やかで輝かしい演奏のバッハだったが、midoriはまるでアンドリュー・ワイエスの鉛筆デッサンのように、一見地味で誇張もなく淡々と精緻に描き込まれながら、作品の核となる部分はしっかり印象付けられていた。
また、白砂の庭-虎渓の庭を流れる川(枯山水)が流れ込む海だとのこと-の切り妻の端正な能舞台に立ち姿がくっきりと浮かび上がり、金色の装飾が施された門扉が右後方にバランスよく配置され、よく考えられた舞台装置だと感心させられた。

7/21は場所を御影堂に移しての演奏会。当日は無料演奏会だった。前日のチケットを持っている人は優先席が用意されると聞いていたが、仮設舞台間近の特等席だった。

ソナタ 第1番ト短調 BWV1001
ソナタ 第3番ハ長調 BWV1005
パルティータ 第2番ニ短調 BWV1004

重音を分散気味の柔らかな弱音から始めたソナタ1番Adagioは楽器の鳴る音が直接耳に届き、周囲の空気を震わせる感触を味わう。ソナタ3番のFugaは雄大で、Largoでは気持ちよく歌い、Allegro Assaiは快速に飛ばした。パルティータ2番シャコンヌは静かに入ってきて、ジワジワとヴィブラートを効かせ音量を上げてくると、直接音だけでなく天井からの間接音と相まって身体が共鳴するような感覚を覚えた。決して荒々しい演奏ではないのに精神の厳しさを感じて、共感の涙がこぼれた。
昨日がワイエスの鉛筆画だとすれば、この日の演奏は雪舟の秋冬山水図のようであった。墨一色で描かれているのに、そこには様々な色彩と温度が感じられた。

今回使用した楽器はこれまでと同じ“エクス・フーベルマン”なのだろうか。林原の倒産で競売にかけられるという話を聞いたが、その後どうなったのだろう。

昨年6月サントリーホールで聴いたときは、癒しがコンセプトだったように聴こえたが、今回は暗い淵を覗き込むようなところやそこからの救済のようなものも感じられて、充実した演奏だったと思う。実は急な用事で家族の一人が21日の無料コンサートのみの参加で昨日のチケット代がもったいないと思っていたのだが、この演奏と空間と時間のための投資であったと思えば、得した気分を味わった。

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