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2012クリスティアン・ツィメルマン すみだトリフォニー

2012.12.12 すみだトリフォニーホール

プログラムB

ドビュッシー:版画
  1.パゴダ
  2.グラナダの夕べ
  3.雨の庭
 :前奏曲集第1集より
  2.帆
  12.ミンストレル
  6.雪の上の足跡
  8.亜麻色の髪の乙女
  10.沈める寺
  7.西風の見たもの

シマノフスキ:9つの前奏曲集Op.1より
  1.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ
  2.アンダンテ・コン・モート
  8.アンダンテ・マ・ノン・トロッポ

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58

「版画」ではアジア、スペイン、フランス(ヨーロッパ)が描かれているらしいが、これはツィメルマンが演奏等で実際に見て感じてきた世界だろう。ツィメルマンという稀有の語り部によって、彼がこれまで経験してきた世界の風景、温度、静寂と喧騒、「雨の庭」では匂いまでが感じられた。

「前奏曲集」は一つの物語に聞こえた。
地平線までさざ波だけが見える、静かな海の風景「ヴェール 帆」。そして、その海を前にした「ミンストレル 吟遊詩人」の心象風景「雪の上の足跡」寂寥、虚無。そして昔日の思い出、慰め、労り「亜麻色の髪の乙女」。沈んでいた伽藍が浮かび上がるのではなく、自分自身が海に潜り探し当てたものは文字通り“がらんどう”誰もいないその寺に響き渡る鐘の音は自分の頭の中だけで鳴っているものなのか、次第に気が遠くなっていくような「沈める寺」。一方、陸の荒ぶる神は猛威を振いあらゆるものをなぎ倒していくさまを描く。あるいはもしかすると原発事故を引き起こしたことやその後の処理に対する、ツィメルマン自身の怒りかもしれない「西風の見たもの」。
拭っても、拭っても、涙が止まらない。ツィメルマンのピアノの音を聴いているようで、実は聴いていなかったのかもしれない。前日の話*を聞いた後ではどうしても前奏曲集各曲は津波が引いた後のイメージに染まってしまい、そのイメージから抜けられなかった。11日が月命日だったからというのはあるだろうが、日本公演の初めに震災追悼のメッセージを出してしまうと、そのメッセージが強烈すぎて純粋に音楽を聴けなくなる恐れがあるので、敢えて最終公演の前日に発表したのだろう。

シマノフスキ 前日*は被災した人々に捧げられた音楽。心に突き刺さる無数のガラスの破片を一つずつそっと取り除こうとするけれども、そう簡単に癒せないことがわかっているから、せめてここに一緒にいるよと、悲しそうに微笑む感じ。

ショパン ピアノ・ソナタ3番第3楽章はこれまで聴いたことがないほど、ゆっくりと、優しく、心を込めて語りかけてくれた。鳴っている音はもちろん最上級に美しいのだけれど、心に直接伝わってくる暖かく柔らかなその感触を思い出すと、また涙が止まらなくなる。

聴衆からは盛大な拍手が送られたけれども、熱狂という種類のものではなく、たぶん半分以上の人は何が起きたのかわからずにあっけにとられていたのではないかと思う。客電が点ると意外にあっさりと拍手が収まり、ツィメルマン日本公演最終日は締めくくられた。

リリアでの演奏を聴き、なぜあんなにも闇に沈んでいくような音を出すのかわからず、様々な思いが交錯してなかなか文章化することができないでいた。違法な録音・公開による裁判などで彼の気持ちが傷ついていることはわかったけれども、本当の理由が納得できず動揺して気持ちの整理がつかなかった。
それでも記憶に留めておかなくてはいけないと思い、ミューズの演奏を聴いてから、ともかく思いの断片を繋ぎ合せて、それぞれの感想を書き上げた。その翌日11日オペラシティで「シマノフスキを被災された方々に捧げる」*とツィメルマンからのスピーチがあったという。2011年3月11日、彼は東京にいてあの地震を、その後の津波や原発爆発事故の国内向け報道とEUでの報道の相違、スイス大使館からの避難勧告などを直に経験しているからこその、畏れ、悲しみ、怒り、慰め、祈りの表現であったのだと考えると腑に落ちる。芸術の受け止め方は人によって様々だし、多義性を持っているからこそ芸術だとも言える。
昨年の3月以降、多くのアーティストの来日キャンセルが続く中、敢えて来日したアーティストが無言であるいは言葉で発したメッセージに慰められたり、励まされたりした。でもこれだけの強い思い(一時的な感情ではなく、これまで1年9か月経っても継続する強い思い)を隠さず、まっすぐに伝えようとしているツィメルマンに強く心を揺り動かされた。

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コメント

流石になってますね。
オイラはゆっくりすなおに鑑賞が一番です。

投稿: 酔うさん | 2013年1月 3日 (木) 23時13分

酔うさん、お久しぶりです。

演奏会を聴くと、上手だなと感心する演奏家と、感情を揺さぶられる演奏家がいて、好き嫌いは分かれますがツィメルマンは後者のタイプです。これはCD等を聴いてもあまりわからず、生の演奏を聴いた人にしかわからないのです。

もし機会があればぜひお聴き下さい。

投稿: pomodoro | 2013年1月 3日 (木) 23時50分

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