幸せな時間だった。
雨が降って湿度が高くて心配だったけれど、サントリーホールで聴いた時(2009年のブラームスVn協奏曲の時の感想)よりも今日の音は低弦が深く響いて、鳩尾の上あたりで共鳴していた。やはりこの人にかかると、よく知っている曲でも驚きに満ちている。
前半ソナタ2番は非常にゆっくりと華やかさを押さえた音色で始まった。テンポの伸び縮みが大きく、一音一音はっきりとした輪郭を描いていた。フーガの声部の描き分けも鮮やかで、これまで意識したことがなかったけれど、クレーメルと似ているところがあると感じた。パルティータの2番に入ると舞曲らしい強拍弱拍がはっきりとして、全体としてはかっちりとした演奏だったと思う。シャコンヌでも死者に対する追悼というよりは、今現在あるこの時間と空間を満たす波が寄せては返し、決して同じではない波頭が崩れる形を波音を淡々と見聴きしているようだった。
不確かな記憶だけれども、サントリーホールで聴いたときよりも少し低く陰のある音色に調律されていたように感じた。あのときはかなり大きな動きで見ているだけで楽しかったが、この日は控えめ。濃いグレーのスーツの袖口から白っぽい裏地が見えていたので、上着の下は半袖のノーカラ―シャツか、黒い生地は光沢があるのでカジュアルすぎることはない。柔らかそうな靴が室内履きのようでかわいらしかった。
後半のソナタ3番はテツラフ節にさらに拍車がかかった。楽章ごとの緩急がはっきりしていて、アレグロ・アッサイはあり得ないくらいの速さで、1981年録音のクレーメルより、ヒラリー・ハーンより速かった(ように感じた)。もちろん速いことだけが重要な訳はないけれど、あの疾走感は爽快だ。パルティータ3番プレリュードの始まり数小節は?と思ったけれど、そのあとすぐに現れた馴染みの美しいメロディ。ガヴォットの響きは美しかったけれど、アンコールで弾いた時の明るい趣ではなく、真剣というかもっと鋭利な響きだった。メヌエットもブーレもジーグもまるでロックのようでベースとドラムスをバックにもっているような躍動感に満ちた演奏で、あっという間に終わってしまった。
ホワイエのCD販売しているところにサイン会ありとあったので、持っていなかったバッハ無伴奏のCDを買ったのだけれど、サイン会に出てきたテツラフを一目見て、拍手だけして帰ってきた。本当はもっとゆっくりしていたかったのだけれど。買ってきたCDはまだ聴いていない。これからゆっくり楽しもう。
2011.05.12 19:00 トッパンホール
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CDを聴いてみた。
我が家の貧弱なオーディオでも十分美しかったけれど、当然昨日の演奏とは迫力が全く異なった。CDが4200円で生演奏が5600円(会員価格)とは、なんてリーズナブルなんでしょう。日曜日が楽しみだ。
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